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Channel: まちかど逍遥
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旧依田邸を見に行く。

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松崎の続き。

今度はバスに乗って大沢温泉へ。と言っても温泉に浸かるためではなく、旧依田邸の見学が目的である。


依田家は武田信玄の家来の家来だったと言われ、この地に移ってから400年間土地の名主であり、
木炭生産や廻船経営などを行ってきた。
十一代の佐二平と勉三兄弟のときが最盛期で、兄の佐二平は製糸業を興し衆議院議員も務めている。
弟の勉三は北海道で十勝の開拓に尽くした。


単体で残された表門。


主屋のなまこ壁。下の方のみ四隅に丸がついているのは、補強の釘を入れてあるのだろうか。


建物の中へ入ると、土間は石敷きである。


凝灰岩の伊豆石だろう。石敷きの土間とは珍しいな!


主屋は300年前の江戸時代元禄期、離れが200年前の文化・文政の頃、3棟の蔵のうち中央の米蔵は
主屋と同じ頃、両側の味噌蔵と文書蔵は幕末頃に増築されたという。
なまこ壁、軒裏塗り込め、銅板貼りの防火戸など完全な火防建築になっているのは、もとあった家が火事で
焼けたからだろう。内部は高級な栂材を使い、拭き漆仕上げなど匠の技をもって作られている。


しかし1961(昭和36)年から「大沢温泉ホテル」として営業するため大規模に改修したらしい。
このロビーなど、ちょっとおしゃれな雰囲気のところはそのときに変えた部分である。
1尺8寸のケヤキ材の大黒柱は当時のまま。


依田家の歴史などについての展示が少しあって、北海道のマルセイバターサンドの包装紙なども展示されていた。
なんで??


依田家十一代の弟の勉三は「晩成社」を設立して十勝の開拓にいちはやく取り組み、さまざまな商品開発を行って
事業化を試みた。事業は失敗に終わったが、数々の困難を乗り越えのちの産業につながる礎を作った勉三は
十勝開拓の祖といわれ、帯広に本社をおく六花亭が勉三にちなんだ菓子を製造したのだという。
マルセイバターサンドの包装紙は、晩成社が初めて商品化した「マルセイバタ」のラベルの意匠を取り入れたものだとか。
ははぁ、そうだったのか!松崎と北海道の意外なつながりが知れて興味深い。こういうところに歴史を刻み今でも
売ってくれているのだから勉三も草葉の陰で喜んでいることだろう。


中庭越しに3棟の蔵を望む景観の美しさには惚れ惚れする。3棟の蔵は下屋で繋がっていて水平ラインが美しいが
これは江戸時代からのものではないように思う。


池のある小さな中庭を囲んでぐるりと廊下が回っている。池泉回遊式というような雰囲気ではなく、むしろ
なぜかイングリッシュガーデンの池のような、そんな感じを受ける。よくわからないけど(苦笑)。




道具蔵の中へ案内頂く。この蔵はホテル時代に客室として使われていたとのことだが、これがちょっと驚きの
空間だった。箱階段の向こうに見えるのは・・・・


なんと、米蔵との間にお風呂があるのだ。もちろんホテル時代に改修して作られたのだが、この両側がなまこ壁、
つまり、蔵の外壁なのだ!!2棟の蔵の1間ほどの隙間に屋根を作りガラスをはめ込んである。


なまこ壁は水に強いとは言え、日常的に水のかかる浴室の内壁にしてしまって大丈夫なのか・・・?
いや、考えてみるとたまに泊まる客が1日に1回入浴するぐらいなら、自然の風雨にさらされるよりも
ずっとましな環境かもしれないな。うまいことを思いついたものだなぁ!


天井に使われた模様の美しい竹。


蔵の前の通路に何か埋め込まれていた。よく床のモルタルに敷瓦や擬木や輪切りにした木などを踏み石として
埋め込んであるのを見かけるが、この形は、いったい何だろう??半円でもなく、昔のダイエーのマークのような
欠円形。しかもたくさんある。大きさや色の違うもの、いちめんに穴の開いたものある。
何か不用になった道具の転用に違いないのだが、思い当たらない。


尋ねてみると、これは「ゆでがま」と呼ばれる、繭を湯通しするための陶製の容器で、それを裏返して埋め込んで
あるのだとか。勉三の兄の佐二平が1875(明治8)年に製糸業を興し3階建ての工場も建てていた。
製糸業が廃れてから不用品となっていたこのゆでがまを、ホテル開業にあたって意匠に利用したのだという。
面白い活用だな!


穴のあるものはザルのように湯切りするためだろう。


江戸時代の富豪の邸宅はそれ自体貴重だが、ホテル向けの改修はまさにリノベーションであり、時代による
改変の痕跡もまた面白いものだ。建築当初の姿に復元してしまうよりも、建物の歴史を含めて楽しむのがいい。




なお、2014(平成26)年に大沢温泉ホテルが廃業したあと邸宅を松崎町が購入し、ホテルの浴室を改修して
「日帰り温泉依田之庄」をオープンしている。今回は旧依田邸でバスの時間ぎりぎりまでゆっくりしてしまったので
入ることができなかった。またの機会に。


続く。

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