松山大学温山記念会館を前回訪問したのは2009年、思い返せばもう15年も前になるのか。。
その頃参加していた洋風建築めぐりの講座で、当時はまだ一般公開されていなかった(と思う)この邸宅建築を
見学させて頂き、それはもう大感激したのだった。それ以来、時々ふと思い出してはもう一度ゆっくり見たいと
思って機会を窺っていたが、コロナ後見学の受け入れが再開されたので、休みを取って友人と一緒に行ってきた。
(15年前の訪問はまたまた書き損ねたままになっていた・・・汗)
この建物は、松山出身で現在のニッタ株式会社の創業者である新田長次郎(温山翁)の邸宅として、
1928(昭和3)年に娘婿である木子七郎の設計により建てられた。
翁は青少年の教育のため私立松山高等商業学校(現松山大学)を創設しており、新田邸は1989(平成元)年に
松山大学に寄贈された。現在は学生の春秋のセミナー等に使用されているが、それ以外の時期には見学が可能。
門の脇にある小さな木戸を入ると、外からも見えていた美しい建物が一段大きく目の前に迫り胸が高鳴る!
S字瓦が載った車寄せやぺたっとした壁に穿たれた連続アーチ窓などからスパニッシュな香りが漂ってくる。
車寄せの下に玄関があるのだがあまり目立たない。
しかし、この玄関回りの意匠は凝りに凝っているのだ!
ドアは外壁面から60cmほど引き込んであり、その回りの壁は額縁のように外に向かって広がっている。
その壁に貼られた装飾タイルは、他では見たことのない独特の色使いである。クリーム色の地に水色と淡い
グリーンで八芒星をかたどり、その内外には宝相華のような模様をあしらっている。一般的な和製マジョリカ
タイルと同じく模様の輪郭が凸状になったクエンカ技法(型押しのチューブライニング)だが、顔料絵具の
ようなマットな色合いと異国情緒漂う八芒星のデザインが、輸入品だろうかと思わせる。
しかしこのユニークな色柄のタイルは、多治見の山内逸三の手によるものということが、タイル研究家の
加藤郁美さんの調査により判明している。(※『にっぽんのかわいいタイル』参照)
モールディングのタイル(テラコッタ)もまた変わっていて、組み合わされた曲面の段の部分で違う色に
塗り分けられている。こういうパーツはだいたいテラコッタ釉とか地味な色の釉薬が全体にぼってりかけられて
いるが、こんな色付きで、しかも多色塗り分けのなんて他で見たことがない!
重厚な玄関ドアはタイルと同じ八芒星デザインで、星の部分に明るめの色の板が張られている。
ドアの外側に当時からの網戸も残っている。これは重宝だな!
そして脇の小窓もまた魅力的なのだ。
ブルズアイ(牛の目)と呼ばれる丸いガラスは瓶底メガネみたいでとても面白い。手吹きで作られるガラスは
不等な厚さで細かく波打ちほどよく視界を遮る。
玄関の内側の壁にもさっきのと同じ色合いのタイルが貼られている。こちらは八芒星ではなく全体が
植物模様の正方形のタイルと、縁取り用のタイルの2種類。壁のアールに合わせてタイルもゆるやかに湾曲
させてあり、この湾曲加減をコントロールするのは相当難しかったのではないかと・・・
玄関の床には白いボーダータイルが矢筈に貼られていて、これもまた美しい。。。
さて玄関ホールに目をやると、年代を経た絨毯に目を奪われる。この絨毯も当時のものだと言う。
こういう敷物やテキスタイルは、良いものと安物とでは建物自体の印象が全く違ってしまうので本当に重要。
そしてその絨毯をべろっとめくって見せて頂いた寄木の床もまた素晴らしい!
六角形をかたち作る3つのひし形パーツは色も木目も違う3種類の木材が使われており、コントラストの強い
3色のくっきりとした柄は存在感があり、隙間なくぴっちりと合った角が技術の確かさを見せつけている。
それにつやつやに磨き上げられ良い状態が保たれているのが感涙もの。
ディテールだけではない。ホールの空間の構成にもまた惚れ惚れする!大きな吹抜けが取れない階段も、
階段裏を曲線に仕上げて見せ場にしているのがさすがだな~
お庭に面したセミナールームは何とゴージャスなのだろうか!
元ダイニングルーム。
各部屋にあるセントラルヒーティングのグリルも古いもので、デザインは様々。
そしてこちらの壁の飾り。鹿のはく製の周囲を飾るのは、これまた風変りなタイルである。
凸らんだ輪郭線に囲まれた部分に顔料と思しき彩色が施されており、透明釉などはかかっていなさそう。
壁の額縁の寸法にぴったりあってはおらず、端の方のタイルはカットしてあると見えるが、20cm角と
いうのも変わったサイズだな。玄関の山内逸三のタイルとも少し似ているが・・・いったいどういう素性の
タイルなのか。。。
この日案内して頂いた今山さんが、このタイルがオスロ国立博物館にあるバルディショル・タペストリーを
モチーフとしていることを発見されたという。すごい!
1613年に建てられた木造のバルディショル教会が1879年に取り壊されたときに、古い資料などが
オークションに出され、ぼろ布と思われ放置されていたものが、実はノルウェーで現存する最古の、また
ヨーロッパでも最古級のタペストリーだったのだ!1040~1190年の間に制作されたものと考えられている。
はてさて、このタペストリーの画像を当時の日本人が入手して忠実に模写しタイルを作ったのか、
それとも外国で作られたタイルをたまたま購入したのか、、、謎である。
窓のではちょうど八重桜が満開!
こちらは勝手口。床は玄関と同じ白ボーダータイルのやはず貼りで、壁の立上り部分には、泰山タイルっぽい
ふくよかな青色のモザイクタイルが貼られていて、勝手口ながらなんとも素敵な小空間なのだ。
トイレは無釉モザイクタイル貼りの床だった!
1Fの奥は和室や台所などの生活空間。収納力抜群の戸棚が作りつけられ広々とした台所は近代的。
銅版張りの巨大レンジフードが気に入った。
続く。
その頃参加していた洋風建築めぐりの講座で、当時はまだ一般公開されていなかった(と思う)この邸宅建築を
見学させて頂き、それはもう大感激したのだった。それ以来、時々ふと思い出してはもう一度ゆっくり見たいと
思って機会を窺っていたが、コロナ後見学の受け入れが再開されたので、休みを取って友人と一緒に行ってきた。
(15年前の訪問はまたまた書き損ねたままになっていた・・・汗)
この建物は、松山出身で現在のニッタ株式会社の創業者である新田長次郎(温山翁)の邸宅として、
1928(昭和3)年に娘婿である木子七郎の設計により建てられた。
翁は青少年の教育のため私立松山高等商業学校(現松山大学)を創設しており、新田邸は1989(平成元)年に
松山大学に寄贈された。現在は学生の春秋のセミナー等に使用されているが、それ以外の時期には見学が可能。
門の脇にある小さな木戸を入ると、外からも見えていた美しい建物が一段大きく目の前に迫り胸が高鳴る!
S字瓦が載った車寄せやぺたっとした壁に穿たれた連続アーチ窓などからスパニッシュな香りが漂ってくる。
車寄せの下に玄関があるのだがあまり目立たない。
しかし、この玄関回りの意匠は凝りに凝っているのだ!
ドアは外壁面から60cmほど引き込んであり、その回りの壁は額縁のように外に向かって広がっている。
その壁に貼られた装飾タイルは、他では見たことのない独特の色使いである。クリーム色の地に水色と淡い
グリーンで八芒星をかたどり、その内外には宝相華のような模様をあしらっている。一般的な和製マジョリカ
タイルと同じく模様の輪郭が凸状になったクエンカ技法(型押しのチューブライニング)だが、顔料絵具の
ようなマットな色合いと異国情緒漂う八芒星のデザインが、輸入品だろうかと思わせる。
しかしこのユニークな色柄のタイルは、多治見の山内逸三の手によるものということが、タイル研究家の
加藤郁美さんの調査により判明している。(※『にっぽんのかわいいタイル』参照)
モールディングのタイル(テラコッタ)もまた変わっていて、組み合わされた曲面の段の部分で違う色に
塗り分けられている。こういうパーツはだいたいテラコッタ釉とか地味な色の釉薬が全体にぼってりかけられて
いるが、こんな色付きで、しかも多色塗り分けのなんて他で見たことがない!
重厚な玄関ドアはタイルと同じ八芒星デザインで、星の部分に明るめの色の板が張られている。
ドアの外側に当時からの網戸も残っている。これは重宝だな!
そして脇の小窓もまた魅力的なのだ。
ブルズアイ(牛の目)と呼ばれる丸いガラスは瓶底メガネみたいでとても面白い。手吹きで作られるガラスは
不等な厚さで細かく波打ちほどよく視界を遮る。
玄関の内側の壁にもさっきのと同じ色合いのタイルが貼られている。こちらは八芒星ではなく全体が
植物模様の正方形のタイルと、縁取り用のタイルの2種類。壁のアールに合わせてタイルもゆるやかに湾曲
させてあり、この湾曲加減をコントロールするのは相当難しかったのではないかと・・・
玄関の床には白いボーダータイルが矢筈に貼られていて、これもまた美しい。。。
さて玄関ホールに目をやると、年代を経た絨毯に目を奪われる。この絨毯も当時のものだと言う。
こういう敷物やテキスタイルは、良いものと安物とでは建物自体の印象が全く違ってしまうので本当に重要。
そしてその絨毯をべろっとめくって見せて頂いた寄木の床もまた素晴らしい!
六角形をかたち作る3つのひし形パーツは色も木目も違う3種類の木材が使われており、コントラストの強い
3色のくっきりとした柄は存在感があり、隙間なくぴっちりと合った角が技術の確かさを見せつけている。
それにつやつやに磨き上げられ良い状態が保たれているのが感涙もの。
ディテールだけではない。ホールの空間の構成にもまた惚れ惚れする!大きな吹抜けが取れない階段も、
階段裏を曲線に仕上げて見せ場にしているのがさすがだな~
お庭に面したセミナールームは何とゴージャスなのだろうか!
元ダイニングルーム。
各部屋にあるセントラルヒーティングのグリルも古いもので、デザインは様々。
そしてこちらの壁の飾り。鹿のはく製の周囲を飾るのは、これまた風変りなタイルである。
凸らんだ輪郭線に囲まれた部分に顔料と思しき彩色が施されており、透明釉などはかかっていなさそう。
壁の額縁の寸法にぴったりあってはおらず、端の方のタイルはカットしてあると見えるが、20cm角と
いうのも変わったサイズだな。玄関の山内逸三のタイルとも少し似ているが・・・いったいどういう素性の
タイルなのか。。。
この日案内して頂いた今山さんが、このタイルがオスロ国立博物館にあるバルディショル・タペストリーを
モチーフとしていることを発見されたという。すごい!
1613年に建てられた木造のバルディショル教会が1879年に取り壊されたときに、古い資料などが
オークションに出され、ぼろ布と思われ放置されていたものが、実はノルウェーで現存する最古の、また
ヨーロッパでも最古級のタペストリーだったのだ!1040~1190年の間に制作されたものと考えられている。
はてさて、このタペストリーの画像を当時の日本人が入手して忠実に模写しタイルを作ったのか、
それとも外国で作られたタイルをたまたま購入したのか、、、謎である。
窓のではちょうど八重桜が満開!
こちらは勝手口。床は玄関と同じ白ボーダータイルのやはず貼りで、壁の立上り部分には、泰山タイルっぽい
ふくよかな青色のモザイクタイルが貼られていて、勝手口ながらなんとも素敵な小空間なのだ。
トイレは無釉モザイクタイル貼りの床だった!
1Fの奥は和室や台所などの生活空間。収納力抜群の戸棚が作りつけられ広々とした台所は近代的。
銅版張りの巨大レンジフードが気に入った。
続く。